※この記事で示す「ガイドライン案」は、公的機関等が定めた基準ではなく、既存のIAQに関する知見をもとに、アロマセラピストの実践を考えるための私自身の提案です。

この記事はシリーズ最後になります。
「IAQ 室内空気質」とは何か。
もし初めて出会う言葉なら、ぜひ第1回目から
お読みいただく事をお勧めします。
aromaeffect.hatenablog.com
今回は総まとめとして、空間芳香における
アロマセラピスト向けガイドライン案
作ってみました。あくまで、1案です。
今まで話した内容の復習と実践に向けて
イメージがしやすくなるかな、と思います。
香りの提供と共にリスク管理を
アロマセラピーにおいて「芳香浴」は、長年、
リラクセーションや気分転換の手段として紹介され
認知が広がっていきました。
また、一般向けに、”浄化”や”天然の消毒剤”という
肯定的な印象を含む言葉で紹介されることも多い
ように思います。

このシリーズで私たちは、「室内空気質(IAQ)」
視点で芳香浴を考えることを学んできました。
IAQ視点から見ると、
精油を空間に芳香させることは、
揮発性有機化合物(VOC)の
”意図的”な放出となります。
そして、環境により「汚染源」となる可能性があり、
健康への影響が懸念されることもある。
少し不安に感じた方もおられるでしょう。
私もその一人です。
芳香浴を「どう考えるか」は分かった。
では、「どう対処するか」。
実は、”意図的”としたところに意味があります。
揮発性有機化合物/芳香成分の空間への放出は
知識と制御によりリスク管理できます。
アロマセラピストは、香りの専門家として
”心地よい香り”を提供するだけでなく、
室内空気を安全に保つことも考え
ご提案していかなければなりません。
安全な室内環境を維持するために
WHOのIAQガイドラインと、前回ご紹介した
40m3の実規模実験の研究データを参考にして
考慮すべきことを順に見ていきましょう。
利用者教育
何よりもまず、安全神話の誤解を解くこと。
精油は自然の恵み。
心地よい香りに私たちは癒されます。
しかし、
自然のものが安全であるとは限りません。
使い方に注意が必要なことも伝えましょう。
精油を変えるのではありません。
私たちの視点を変えるのです。
定期的に換気を行う
IAQの快適な室内環境を考えるとき
最も手軽で最も有効な方法と思われます。
屋外空気との入れ替えを計画的に行うことで
室内のVOC濃度を希釈したり、
排出したりすることができます。
芳香後に十分な換気を行い、室内の使用状況や
換気条件に応じて換気頻度を調整します。
この記事では、換気の一つの目安として
「1時間程度」と置いてみます。
もし換気の難しい環境であれば
換気扇、扇風機、サーキュレーターを使うなど
空気の流れが停留しない工夫が必要になります。

ディフューザーを環境や目的に合わせて選ぶ
使用するディフューザーの選択は、
利用者の曝露量(濃度)と時間(持続性)を
リスク管理することにつながります。
ディフューザーによる曝露に関しての
詳細は、このシリーズの2回目で
触れていますので、再度ご確認ください
『第2回 IAQ視点から空間芳香を考える』
https://aromaeffect.hatenablog.com/entry/iaq2
電気式ディフューザー(瞬間型)
短時間で効果的に芳香できますが
十分に換気がなされていない場合
急激な濃度上昇を招きます。
また、精油の液相と気相で
時間の経過と共に成分構成比が変わります
これに対し、次のような対策ができます。
1. 室内濃度の調整
・積極的な換気を行う
→ 時間を決めて窓の開け閉めする
使用状況に応じて定期的に行う。
→ 窓を完全に閉めない
隙間を開けておくなどの工夫
・デバイスのスマート機能をつかう
→ 間欠設定でインターバルを設定する
→ タイマー設定で一定時間だけ拡散する
2. 空気の流れを利用する
・建物の24時間換気システム
・人の出入りが多い場所
こうした環境では換気の自動化が期待できます。
リードディフューザー(連続型)
急激な室内の濃度上昇は起こりにくいですが、
長時間にわたって放散が続くため
持続した曝露を考慮する必要があります。
室内濃度は空間の広さだけで決まりません。
「広い部屋だから安心」
「狭い部屋だから危険」
と単純に判断できないのです。
空間が広くても、リードディフューザーからの
放散そのものが止まるわけではありません。
広い空間では、同じ放出量であれば、空気中濃度は
低くなる可能性があります。
しかし、放散源が存在する限り、放散量、
換気条件、使用時間、空気の流れなど
によって室内濃度は変化します。
そのため、こうしたすべての条件を合わせて
考慮することが重要です。
これに対し、次のような対策ができます。
1. 室内濃度の調整
・精油濃度を希釈剤で調整する
→ 薄くしたい場合は、ディフューザーベース
や無水エタノールで薄めることができる。
製品の仕様や希釈剤の種類によって
放散特性が変わるため、適切な濃度を検討。
DIYの場合は、環境にあわせて設計する。
・リードの本数や材質で調整する
→ 本数を減らすことで揮発を抑える
→ リードの材質で吸い上げ能力が違う
2. 芳香環境を選ぶ
・人が出入りする空間
日常的に人が出入りする場所では
自然な換気が期待でき、ほのかに芳香する
玄関やトイレなど。
・長時間滞在しない空間
換気条件にもよるが、長時間作業する部屋
は不向きかもしれません。書斎や勉強部屋など。
リードディフューザーの傍で長時間の
作業をしない選択もある。

他のディフューザーも検討する
アロマストーンやアロマウッドなど、
精油を1~2滴しか使わないものは、
一時的で持続性が低くなります。
気分転換など、短時間の芳香であれば、
この程度の使用でも十分な場合があります。
精油の組成と物理化学的特性はリスク管理の基本知識
ディフューザー選びとリスク管理の
最大の武器は知識だと思います。
選ぶ精油や時間の経過で、空間の化学物質
構成が変化することを知っておくこと。
臨機応変に対応するためのスキルになります。
考慮する点をいくつか挙げておきます。
・精油は芳香物質の混合体である
すべての物質の動態を追うことはできない。
しかし、ある程度の予測は可能。
・各芳香物質の揮発性
分子の大きさや化学構造などによって
蒸気圧が異なる。そのため、
成分によって気相へ移行する速度も異なる。
気相への移行速度の違いで空間濃度を予測。
・室内温度
空間の温度が高いほど早く揮発する。
複合曝露の考慮
芳香する空間環境を、ある程度、
把握することも重要です。
現代では、意図せず多くの化学物質に
囲まれて生活していると言われます。
例えば、建築材の塗料・接着剤類、
家具、電化製品、布製品、洗剤類、消臭剤、
化粧品類、など挙げればきりがない…。
複合曝露とは、こうした身近にある
複数の化学物質に、同時または重複して
曝露される状況を指します。
精油を芳香することで、室内空気中に
新たな化学物質が加わることになります。
複合曝露による健康への影響が生じる
可能性も常に念頭に置いておきましょう。
二次汚染の回避
注意したいリスクの一つが、室内空気中の
オゾン(O3)とテルペン化合物類の反応
によって生成される二次汚染物質です。

これに対する対策として
オゾン発生源がある空間での
精油による芳香浴は避ける
ということが重要になります。
オゾン発生源の例として、
一部の空気清浄機やコピー機などがあります。
特に注意が必要なケース(対象者)
基本的に、濃度や拡散時間に関して、
どのような環境下でも注意は必要です。
・ 呼吸器疾患のある方
・ 香りや化学物質に過敏な方
・ 乳幼児の居る環境
・ 高齢者の居る環境
・ 動物がいる環境
これらは「精油だから危険」という意味はなく、
室内環境の変化や曝露への配慮が必要なケース
として考えます。
考慮すべき点
・化学物質への曝露に対する感受性
→ 身体的な状態や個人差など
・ 室内空気質の変化への対応
→ 呼吸機能など、身体機能の違い
・ 床に近い場所を生活環境としている
→ 床表面に沈着した残留成分を
吸い込みやすい。口にしやすい。

まとめ
シリーズ3回にわたり、【空間芳香と室内空気質】
を一緒に見てきました。
私たちアロマセラピストは、精油は
健康へ良い影響を与えるものと信じています。
特に、空間芳香は、”気軽で比較的安全なもの”
であり、深く注意を払う人は多くないと思います。
アロマセラピーにおいての空間芳香は
相手の好みの香りやシーンに合わせたブレンド
をメインに考えるほうが多いでしょう。
私もIAQという考え方に出会うまではそうでした。
アロマセラピーは他分野に渡る知識が必要と
理解していたつもりでしたが、
新たな領域が追加された!という気分。
そして、ぜひシェアしたい内容でもありました。
最終となるこの記事は、冒頭でもお伝えしたように
IAQの考え方をアロマセラピスト向けに
安全ガイドライン「案」としてまとめたものです。
どなたかのお役に立てれば嬉しく思いますし、
もし、ご自身でより良い案が見つかれば
それに沿った実践に活かしてもらいたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考文献とキーワード
今回のブログ作成にあたり、以下の文献を参照しています。
興味のある方はぜひご確認ください。
海外の研究・ガイドライン
- Angulo-Milhem, S., Verriele, M., Nicolas, M., & Thevenet, F. "Full-scale determination of essential oil diffusion: impact on indoor air quality" (実規模実験室「IRINA」を用いた精油拡散の室内空気質への影響に関する研究報告)
- Angulo-Milhem, S., Verriele, M., Nicolas, M., & Thevenet, F. (2021). "Indoor use of essential oils: Emission rates, exposure time and impact on air quality." Atmospheric Environment, 244, 117863
- Su, H. J., Chao, C. J., Chang, H. Y., & Wu, P. C. (2007). "The effects of evaporating essential oils on indoor air quality." Atmospheric Environment, 41, 1230-1236.
- World Health Organization (2010). "WHO guidelines for indoor air quality: selected pollutants." (WHO 室内空気質ガイドライン:選択された汚染物質)
日本の研究論文・報告
- 吉田弥明, 木村愛, 羽鳥友康, 山田誠, 滝欽二, 山田雅章 (2004). 「スギムク材内装モデル居室における揮発性有機化合物 (VOCs) の放散挙動」 『木材学会誌』 vol. 50, No. 3, p. 168-175
- 神野透人, 香川(田中)聡子, 小濱とも子, 宮川真琴, 吉川淳, 小松一裕, 徳永裕司 (2007). 「室内空気中の総揮発性有機化合物 (TVOC) に対する芳香剤・消臭剤の影響に関する研究」 『国立衛研報』 125, 72-78.
- 高木麻衣, 吉永淳 (2009). 「日本人小児のハウスダストを介した化学物質曝露のリスク評価」 『室内環境』 Vol. 12, No. 2, pp. 103-114.
- 松木秀明 (1998). 「化学物質による室内汚染」 『大気環境学会誌』 第33巻 第2号, A19-A29.
- 松村年郎 (1996). 「化学物質による室内空気汚染 ―VOCとホルムアルデヒドについて―」 『大気環境学会誌』 第31巻 第6号, A154-A163.
キーワード
室内空気質, IAQ, 室内環境, 建築環境衛生, 室内汚染, 大気環境学